営業保証金とは?供託・還付・取戻しの数字と流れ

家を買うときに何百万円もの手付金を渡した不動産会社が、もし突然倒産したらどうなるでしょうか。 営業保証金は、宅建業者が営業を始める前に本店の最寄りの供託所に預けておくお金です。額は本店1,000万円、支店1か所ごとに500万円と決まっています。業者との取引で損をしたお客さん(宅建業者は除く)は、このお金から払ってもらえます。なお、保証協会に入った業者は、営業保証金を預けなくてかまいません。宅建試験では、いくら・どこに・いつまでに・公告が要るかの数字と順番がくり返し問われます。お金を預けてから返してもらうまでの流れに当てはめて整理しましょう。
営業保証金とは?なぜ必要?
営業保証金は、宅建業者が取引のお客さんを守るために、あらかじめ国の窓口に預けておくお金です。法律では、国の窓口(法務局など)にお金を預けることを「供託」、その窓口を「供託所」と呼びます。
部屋を借りるときは、借りる人が大家さんに敷金を預けます。家賃を払えなくなったときに備えるためです。営業保証金はその逆で、業者のほうが何かあったときのお金を供託所に預けておくしくみです。
なぜこんな決まりがあるかというと、土地や建物の取引は動くお金がとても大きいからです。もし業者が倒産しても、会社の口座とは別に供託所にお金が置いてあれば、お客さんはそこから損害を払ってもらえます。なお、後で説明する保証協会の社員(会員)になった業者は、別のしくみでお客さんを守ります。そのため、営業保証金を預けなくてよい決まりです。
営業保証金はいくら・どこに供託する?
預ける額は、主たる事務所(本店)が1,000万円、その他の事務所(支店)が1か所ごとに500万円の合計です。どこが事務所に当たるかは事務所・案内所等で詳しく確認できます。
たとえば、東京に本店があり、大阪と福岡に支店が1つずつある業者なら、1,000万円+500万円×2か所=2,000万円を預けます。預ける場所は、支店の分も含めて全部、本店の最寄りの供託所です。大阪や福岡の支店の近くにある供託所に、500万円ずつ分けて預けるのではありません。
預けるものは現金(金銭)だけでなく、国債などの有価証券でもかまいません。金銭と有価証券を混ぜて預けることもできます。使える有価証券は、国債・地方債と、国土交通大臣が指定した社債などの債券です。
ただし、有価証券の種類によって、営業保証金として数えられる割合(評価額)が変わります。
額面1,000万円なら
たとえば、本店だけの業者(必要額1,000万円)が、額面1,000万円の地方債を預けたとします。地方債は額面の90%で数えるため、900万円にしかなりません。営業を始めるには、あと100万円を現金などで足す必要があります。
営業保証金を供託してから営業を始めるまでの流れは?
営業保証金は、預けただけでは営業を始められません。必ず免許 → 供託 → 届出 → 営業開始の順番で進めます。
- 国土交通大臣または都道府県知事(免許権者)から免許を受ける。
- 本店の最寄りの供託所に営業保証金を供託する。
- 供託書の写しを付けて、免許権者に供託したことを届け出る。
- 届け出た後で、はじめて営業を始める。
大臣免許でも知事免許でも、業者自身が免許権者へ届け出ます。供託所が代わりに連絡してくれることはありません。もし届出をする前に、家の売買や仲介の営業を始めてしまうと、業務停止処分の対象になります。6か月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(または両方)という罰則もあります。処分の全体像は監督処分・罰則で整理しています。
営業を始めた後に新しく支店を増やしたときも同じです。新しい支店の分(1か所500万円)を本店の最寄りの供託所に預けます。免許権者に届け出た後でなければ、その新しい支店で営業を始められません。
届出をしないまま放置したらどうなる?
たとえば、免許を取ったのに資金が集まらず、営業保証金を預けないまま3か月が過ぎたとします。免許を受けてから3か月以内に供託の届出がないとき、免許権者は届出をするよう催促(催告)をしなければなりません。
その催告が届いた日から1か月以内にそれでも届出がないときは、免許権者は免許を取り消すことができます。催告は必ず行いますが、免許を取り消すかどうかは免許権者が決められる点に気をつけてください。
営業保証金の還付とは?だれが受けられる?
業者が預けた営業保証金から、取引で損をしたお客さんがお金を払ってもらうことを「還付」といいます。たとえば、マイホームを買う契約をして、手付金300万円を業者に払ったとします。そのあと業者が倒産して、連絡が取れなくなりました。このとき買主は供託所に請求して、業者が預けた営業保証金から払ってもらえます。
ただし、だれでも還付を受けられるわけではありません。対象になるのは、業者と宅建業の取引をした人(宅建業者は除く)だけです。
取引の相手が宅建業者だったときは、還付を受けられません。業者どうしはプロとして自分で気をつけられるので、保護の対象から外れています。また、業者のチラシを作った広告会社の広告代金や、事務所の内装工事の代金も還付の対象外です。これらは不動産の売買や仲介といった宅建業の取引ではないからです。
払ってもらえる上限は、その業者が供託している営業保証金の全額です。たとえば本店と支店1つを持つ業者は、合計1,500万円を供託しています。その支店で取引したお客さんでも、支店の500万円までではなく、1,500万円まで還付を受けられます。なお、還付を受けるときは、国土交通大臣から宅建業者でないことの確認書をもらって供託所に請求します。この細かい手順は、試験対策として深く追わなくてかまいません。
還付で足りなくなったら?(不足額の供託)
お客さんに還付が行われると、預けてある営業保証金が決まった額より少なくなります。たとえば1,000万円預けていた本店だけの業者から300万円が還付されると、残りは700万円です。
このとき、供託所から連絡を受けた免許権者が、業者へ通知書を送ります。業者は通知書の送付を受けた日から2週間以内に、足りない300万円を供託しなければなりません(有価証券でもかまいません)。さらに、供託した日から2週間以内に、供託書の写しを付けて免許権者に届け出ます。2週間以内に供託しないと、業務停止処分の対象になります。
本店を移転したら営業保証金はどうなる?(保管替え)
引っ越しをして住所が変わると、最寄りの役所が変わることがあります。同じように、業者が本店を移転して最寄りの供託所が変わったときは、預けている営業保証金の場所も移さなければなりません。最寄りの供託所が変わらない引っ越しなら、手続きは要りません。
このときの手続きは、金銭だけで預けているか、有価証券が入っているかで分かれます。
金銭だけ
有価証券が 入っている
有価証券だけ、
金銭だけで預けているなら、費用を前払いして今の供託所に頼めば、新しい最寄りの供託所へ預け先を移してくれます。これが「保管替え」です。
一方、国債などの有価証券が少しでも混ざっていると、供託所どうしで移す保管替えができません。そのため、まず移転先の最寄りの供託所に、もう一度同じ額を預けます。一時的に2か所に預けた状態にしてから、前の供託所に預けていた分を返してもらいます。先に新しく預けるので、お客さんが守られないすき間ができません。保管替えがされたとき、または新たに供託したときは、遅滞なく免許権者に届け出ます。
営業保証金の取戻しはいつできる?公告は要る?
業者が預けていた営業保証金を供託所から返してもらうことを「取戻し」といいます。取戻しができるのは、営業保証金を預けておく必要がなくなったときです。
たとえば、5年の有効期間が切れて、免許を更新しなかったときです。廃業・破産・解散の届出や、死亡・合併による消滅で、免許がなくなったときも取り戻せます。免許の有効期間や廃業の届出のルールは免許で確認できます。また、悪いことをして免許を取り消された業者でも、営業保証金を取り戻せます。ほかにも、支店を1つ閉鎖して預けすぎになった分(500万円)を取り戻せます。本店移転で二重に預けたときの前の分や、保証協会の社員になったときも同じです。
取戻しには、原則として公告(官報で広く知らせる手続き)が必要です。「還付を受けたい人は6か月以上の期間内に申し出てください」と知らせます。期間内にだれからも申出がなければ、お金を返してもらえます。なぜ6か月も待つかというと、損をしたお客さんが、業者の廃業などに気づいて名乗り出る時間を作るためです。支店を1つ廃止して500万円だけ取り戻すときも、その支店で取引したお客さんがいるかもしれないので公告が要ります。
ただし、お客さんが困るおそれがない次の3つの場面では、例外として公告なしですぐに取り戻せます。
- 本店移転で移転先の供託所に新たに供託したときの、前の供託所の分(新しい供託所に同じ額があるから)
- 保証協会の社員になったとき(これからは保証協会のしくみでお客さんが守られるから)
- 取り戻せる理由ができてから10年が経過したとき(十分な時間がたったから)
営業保証金と弁済業務保証金の違いは?
本店だけで1,000万円という営業保証金は、開業したばかりの小さな不動産会社には大きな負担です。そこで、宅地建物取引業保証協会(保証協会)の社員になる方法も用意されています。社員になった業者は、営業保証金の代わりに弁済業務保証金分担金という、ずっと少ないお金を協会に納めます。
保証協会の社員になると、営業保証金を供託しなくてよくなります。すでに営業保証金を預けていた業者が途中から保証協会に入ったときは、預けていた営業保証金を公告なしで取り戻せます。逆に、保証協会の社員でなくなったときは、その日から1週間以内に営業保証金を供託しなければなりません。
たとえば本店だけの業者なら、保証協会に納める分担金は60万円で済みます。それでも、取引で損をしたお客さんが払ってもらえる上限は、営業保証金を預けていたときと同じ1,000万円です。分担金の納め方や手続きの詳細は宅建の保証協会とは?弁済業務保証金と営業保証金の違いで解説しています。
契約の前に供託所を説明する(供託所等の説明)
業者は、取引の相手方(宅建業者は除く)に、どこの供託所にお金を預けているかを説明しなければなりません。説明は契約が成立するまでに行います。万が一のときに、お客さんがどこへ請求すればよいか知らせておくためです。
営業保証金を預けている業者なら、本店の最寄りの供託所とその所在地を説明します。保証協会の社員なら、説明することが変わります。社員であること、保証協会の名称・住所・事務所の所在地、保証協会が弁済業務保証金を預けている供託所とその所在地です。
この説明は、法律上書面を渡すことまでは求められていません。国土交通省は、重要事項説明書に書いて説明するのが望ましいとしています。重要事項説明書のルールは重要事項説明(35条書面)とは?宅建の4つの決まりと記載事項で解説しています。また、相手が宅建業者なら説明は要りません。
営業保証金は宅建試験でどう出る?
2015〜2025年の13回分の宅建業法の問題260問を分析すると、営業保証金が中心の問題は11問でした。保証協会の問題と合わせると、ほぼ毎回1〜2問が出ます(科目全体の出題傾向は宅建業法とは?何問出る?分野の出題数と勉強法を参照してください)。
11問のうち8問は、受験予備校が公表した受験者の正答率が80%以上でした。多くの人が取る問題なので、落とすと差がつきます。
よく出る順は次のとおりです(かっこは選択肢の数)。①供託の額・場所・有価証券・開始までの流れ(20肢)。②還付と不足額の供託(12肢)。③取戻しと公告(9肢)。④供託所等の説明(6肢)。⑤保管替え(4肢)。まずは①〜③の数字と順番を押さえましょう。
正答率が60%未満だったのは、2021年12月の1問だけです。④の供託所等の説明だけを4肢すべてで問う問題でした。書面が要るか、相手が業者のときはどうか、保証協会の社員は何を説明するかが、すり替えられていました。
- 支店分は
支店の 最寄りへ全部を 本店の 最寄りへ - 供託後すぐ
営業できる届出の 後で 営業できる - 業者も
還付を 受けられる宅建業者は 受けられない - 協会加入の
取戻しは 公告協会加入なら 公告は 不要
例題
Q1本店と支店2か所を設ける宅建業者は、本店について1,000万円を本店の最寄りの供託所に、支店について各500万円をそれぞれの支店の最寄りの供託所に供託しなければならない。
Q2本店のみを設ける宅建業者が、営業保証金として額面金額1,000万円の地方債証券と金銭100万円を合わせて供託すれば、届出の後に事業を開始できる。
Q3免許を受けた日から3か月以内に営業保証金を供託した旨の届出をしないときは、免許権者はその届出をすべき旨の催告をしなければならず、催告が到達した日から1か月以内に届出がないときは、免許を取り消すことができる。
Q4宅建業者Aと宅地建物の売買契約を締結した買主Bが宅建業者である場合でも、Bはその取引により生じた債権について、Aが供託した営業保証金から還付を受けることができる。
Q5金銭のみをもって営業保証金を供託している宅建業者が、本店を移転したためその最寄りの供託所が変更となった場合、遅滞なく移転先の最寄りの供託所に新たに営業保証金を供託しなければならない。
Q6宅建業者が一部の支店を廃止したことにより営業保証金の額が政令で定める額を超えた場合、その超えた額を取り戻すには6か月を下らない期間を定めて公告しなければならないが、保証協会の社員となったことにより営業保証金を取り戻す場合は公告を要しない。
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